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山形地方裁判所 平成4年(ワ)279号 判決

原告

長倉好雄

原告

早坂正広

右両名訴訟代理人弁護士

佐藤欣哉

縄田政幸

被告

丸彦製菓株式会社

右代表者代表取締役

山田行彦

右訴訟代理人弁護士

長岡壽一

主文

一  原告らが被告に対し、それぞれ雇用契約上の地位を有することを確認する。

二  被告は、原告長倉好雄に対し、金七一七万二〇〇〇円及び平成七年一〇月一日以降本判決確定に至るまで毎月末日限り月額金一七万九三〇〇円の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告早坂正広に対し、金七二六万円及び平成七年一〇月一日以降本判決確定に至るまで毎月末日限り月額金一八万一五〇〇円の割合による金員を支払え。

四  原告らの請求のうち、本判決確定の日の翌日以降毎月末日限り原告長倉好雄については月額金一七万九三〇〇円、原告早坂正広については月額金一八万一五〇〇円の各割合による金員の支払を求める部分は、いずれもこれを却下する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告は、原告長倉好雄(以下「原告長倉」という。)に対し、金八九万六五〇〇円及び平成四年一〇月から毎月末日限り金一七万九三〇〇円の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告早坂正広(以下「原告早坂」という。)に対し、金九〇万七五〇〇円及び平成四年一〇月から毎月末日限り金一八万一五〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第2項及び第3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件各訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告会社は、山形県新庄市(以下、略)に新庄工場を有する米菓製造販売を主たる業とする株式会社であり、原告らは、いずれも平成二年一二月一一日、被告会社に正社員として雇用され、夜間製造工(勤務時間が午後五時から翌日午前零時三〇分までの夜間専門)として被告会社の新庄工場で米菓の製造等に従事していた。

2  原告長倉の月額賃金は金一七万九三〇〇円であり、原告早坂の月額賃金は金一八万一五〇〇円である。被告会社の賃金は、毎月二〇日締切りで計算され、その月の末日に支払われる。

3  被告会社は、原告らを平成四年五月二二日付書面をもっていずれも解雇したと称して、原告らと被告会社との間のそれぞれの雇用契約の存在を争う。

よって、原告らは、被告会社との間にそれぞれ雇用契約が存在するとの確認及び被告会社に対し平成四年五月分以降の各未払賃金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

原告らは、平成四年五月以降、本件において原告らが無効であると主張する解雇に係る当庁平成四年(ヨ)第七五号地位保全等仮処分申請事件についての仮処分申立書を読売新聞社に開示し、これを新聞報道させたことにより被告会社に多大の回復困難な損害を与えた外、被告会社新庄工場に頻繁に電話をかけ、勤務中の従業員を呼び出して勤務に関する干渉や脅迫類似行為を繰り返したが、右事実は就業規則五一条一〇号、五三条二号、五二条八号、五三条四号、七号及び一二号の各懲戒事由に該当するので、被告会社は懲戒手段として通常解雇を選択した上、三〇日間の予告手当を支払って解雇することとし、平成四年九月一六日、解雇の意思表示をし、これが原告長倉に対しては同日、原告早坂に対しては同月一七日に到達し、すでに原告らは雇用契約上の地位を喪失したから、本訴は訴えの利益を欠く不適法なものである。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの答弁

原告らが新聞社に対して仮処分申立書を開示したこと及び原告らが被告会社従業員に干渉や脅迫類似行為を行ったことについては否認する。前記仮処分申立てが読売新聞によって報道されたことは認めるが、取材・報道は新聞社の責任のもとに行われたのであり、被告会社主張にかかる就業規則所定の懲戒事由には該当せず、平成四年九月一六日になされた解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効である。

四  請求の原因に対する認否

1  請求の原告1のうち、原告らが「夜間製造工」として稼働していたことは否認し、その余の事実は認める。原告らは夜間勤務担当グループに所属していたに過ぎない。

2  同2及び同3の事実は認める。

五  被告の主張(本案について)

1  被告会社は、原告長倉に対し、平成四年五月二五日、原告早坂に対し、同月二二日、それぞれ就業規則一九条八号に基づき、解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をし、その際、労働基準法二〇条に定める解雇予告手当として、三〇日分の平均賃金を提供したが、原告らにいずれも受領を拒絶されたので、同月二八日、同額をそれぞれ山形地方法務局新庄支局に弁済供託した。

2  本件解雇の理由は、次のとおりである。

(一) 被告会社新庄工場の生産品目は「揚げせんべい」であり、せんべい用の生地を油で揚げ、これを包装して出荷することを主たる業務内容とするものである。揚げ作業は機械が自動的に作動するので、本来従業員間に生産量の差異は生じないはずなのに、原告らは、作業中に一〇ないし一五分から四〇分間の持ち場放棄をし、その際、工場外に出て喫煙するなどしていたため、その作業量は少なく、他の従業員が原告らの作業部分を補わざるを得なかったことから、上司や同僚の注意を受けたにもかかわらず、かえってこれらの者を誹謗し、果ては、「リーダーやサブリーダーは無能だ。」などと触れ回り、上司の立場をないがしろにした。また、原告らの生産量が少ないために、終業時刻になっても材料のせんべい生地が残っている場合には、原告らは、残り生地を手でねじり割ったり、生地をダンボールごとコンクリート床に落として割ったりするなどして破壊し、材料を無駄にした。さらに、原告らは、言葉づかいが悪く、乱暴であり、職場の人間関係も悪かった上に、平成四年五月一一日には揃って早退し、同月一二日には無断欠勤した。

(二) 被告会社は、原告らがリーダーの指示に従わないときが多々あったこと、まじめに仕事をしている人が原告らから仕事をやめろとどなられることが多々あったこと、原告らから毎日のように嫌がらせにあっていた人がいたこと等から、原告らの前記のような言動が業務運営上好ましくなく、生産性に支障を来すので、これらの行為が就業規則一九条二号、三号、八号、五一条一号、二号、三号、六号、五二条二号、五号及び九号に該当すると判断し、同月一三日、口頭で原告らに解雇を通告した上で、本件解雇に及んだ。

3  被告会社は原告らに対し、平成四年五月二五日、同月分の賃金を支払った。

六  被告の主張(本案について)に対する認否

1  被告の主張(本案について)1の事実は認める。

2  同2の一(ママ)のうち、被告会社新庄工場が「揚げせんべい」を主たる生産品目としていることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同2の二(ママ)のうち、平成四年五月一三日、原告らが口頭で解雇の通告を受けたことは認め、その余の事実は否認する。

4  同3の事実は否認する。

七  原告らの主張

原告らは、農業に従事しつつ被告会社新庄工場に勤務するために被告会社との協議のもとで夜間専門の勤務とされたのに、被告会社が一方的に夜間専門の勤務形態を廃止して二交替勤務形態に変更し、かつ労働時間を一時間一五分延長することを目論んだので、被告会社に対して、少なくとも農繁期における勤務時間の便宜をはかってほしい旨要請したが応じてもらえなかった。そこで、原告らは、右勤務形態の変更が労働時間の変更を伴い、就業規則二七条の改正を要することから労働者代表の意見を徴する必要があると考え、平成四年五月一一日、被告会社新庄工場総務担当チーフ訴外A(以下「A」という。)に対し、新庄工場の労働者代表が誰かを尋ねるなどしたところ、かえって、原告らの行動が被告会社の忌み嫌うところとなり、被告会社は原告らを社外に排除する目的で本件解雇に及んだものである。仮に、被告の主張(本案について)2(一)の事実があったとしても、注意を与えるか訓戒処分に留めるべきものであり、そのような過程を経ず、原告らに一切弁明の機会を与えずに解雇処分に付したことは、実体的にも手続的にも、解雇権の濫用として無効である。

八  原告らの主張に対する認否

原告らの主張のうち、被告が二交替勤務形態への変更を意図していたこと、訓戒処分等の過程を経ずに原告らを解雇処分にしたことは認め、平成四年五月一一日に原告らが新庄工場の労働者代表が誰かを尋ねたことは知らない。その余の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の「書証目録」及び「証人等目録」の記載を引用する。

理由

一  被告の本案前の主張について検討する。

原告らが本訴において被告に対し「原告らが雇用契約上の地位を有することを確認する」ことを求めていることは訴訟上明らかである。したがって、被告の本案前の主張事実を認めることができたとしても、原告らが本件解雇の無効確認を求めているのであれば格別、これをもって原告らの本訴請求につき訴えの利益を欠くということはできない。また、原告らが当庁平成四年(ヨ)第五七号地位保全等仮処分申請事件の仮処分申立書を読売新聞社に開示して報道させたこと及び平成四年五月以降原告らが被告会社従業員に干渉や脅迫類似行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の本案前の主張は理由がない。

二  証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、原告らは夜勤専門の正社員として被告会社に雇用されたことが認められ、請求の原因1のその余の事実、同2及び同3の事実は当事者間に争いがない。

三1  被告の主張(本案について)1の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、同2の事実(被告主張の解雇事由)の有無について検討する。

(一)  証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(1) 被告会社新庄工場は、Aを総括チーフとして平成二年一二月頃に操業を開始し、「揚げせんべい」を中心的な生産品目とし(この事実は当事者間に争いがない。)、せんべい用の生地を油で揚げ、これを包装して出荷することを業務内容としている。

(2) 原告らは、昼間は農業に従事する都合から被告会社新庄工場に夜勤専門として雇用されたが、当時は採用面接に当たったAから昼夜二交替勤務への移行の予定は聞かされていなかった。

(3) 原告らの勤務態度については、Aを呼び捨てにしたこと、所定の時刻よりも一五分超過して休憩時間を取ったこと、休日出勤を差し控えようと話し合った同僚の一人がその話し合いに反して休日出勤に応じたことを詰問したことなどがいずれも一回ずつ認められ、その他にも、上司を呼び捨てにし、乱暴な言葉づかいをするなどいささか穏当を欠く言動をしたことがうかがわれ、さらに作業中に無関係な私語を一〇ないし二〇分続けたことがあった。

また、揚げ作業をするに際して、原告らの作業工程に先行する生地の乾燥作業の遅れなどのために作業の中断時間が生じることがあるが、原告らは、その空き時間にトイレに行ったり、喫煙したりすることがあった。さらに、せんべいの生地の中に不良品が混入している場合には、原告らの作業工程においてそれを取り除くことになっていたところ、原告らは、返品した不良品の生地が再度被告会社新庄工場に納入されることがある旨聞いていたので、そのようなことのないように、不良品の生地は破壊した上でまとめることとし、特に生地を詰めた段ボール箱ごと不良品として返品する場合には、その箱をコンクリートの床上に落として生地を破壊していた。

(4) Aは、受注の増加に伴い、新庄工場の勤務体制を昼夜二交替勤務制に移行するという被告会社の方針を受け、平成四年四月一六日、同工場従業員らに対して昼夜二交替勤務制への移行とそれに伴う夜勤専門の廃止を説明したが、原告らのみがその採用の経緯からしてこれに対して不満を示した。同月二一日に再度Aが同旨の説明をしたものの、やはり原告らは不満を示し、同月二八日には届出のうえ早退をした。

(5) 被告会社代表者は、同年五月一一日、新庄工場を訪れ、新庄工場従業員に対して昼夜二交替勤務制への移行とそれに伴う夜勤専門の廃止を説明し、それを了承して欲しいとの説明をしたが、その際、原告らは、昼夜二交替勤務制への移行をする場合でも農繁期には夜勤だけにさせて欲しい旨の希望を表明した。そして、原告らは、同日、右説明を受けた後に早退届を出して早退をし、翌一二日には無断欠勤した。

(6) 原告らが翌一三日に出勤すると、直ちにAから「社風に合わない。」との理由を告げられて口頭で解雇され、その後原告らは、A名義の「解雇通知」と題する文書を受け取り、さらには被告本社から内容証明郵便をもって「解雇通知書及び予告手当支払通知」と題する文書の配達を受けた(この事実は当事者間に争いがない。)。

以上の事実を認定することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  右によれば、原告らの所為は、被告会社の就業規則(〈証拠略〉)所定の懲戒解雇事由、すなわち「その他不都合な行為があったとき」(五三条一二号)に該当するということができる。

四  原告らの主張(解雇権の濫用)について、検討する。

1  前述のとおり、原告らの所為が被告会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとはいうものの、いずれも比較的軽微な非行であって、しかもこれが日常的に頻発していたとまでいうことはできない。

2  一方、被告会社は平成四年四月ころ以降新庄工場における勤務体制につき夜勤専門を廃止して昼夜二交替勤務制に移行することを企図し、新庄工場の従業員のうち原告らを除くその余の従業員はこれを容認する意向を示していたのに対し、原告らのみが農作業に支障を生ずる等としてこれに反対する姿勢を維持していたことは前記認定のとおりである。

3  さらに、被告会社は、原告らが従前から非違行為を繰り返していたとしながら、就業規則に定める他の懲戒(被告就業規則五〇条によれば、懲戒の種類として、懲戒解雇のほか、訓戒、昇給停止、減給、出勤停止、役職剥奪、諭旨退職が定められている。)を行うことなく(この事実は当事者間に争いがない。)、平成四年五月二二日の段階に至って原告らに対し最も重い懲戒である懲戒解雇の処分を行ったことは、新庄工場における新勤務体制の導入に反対する姿勢を維持している原告らを懲戒解雇の名目で職場から排除しようとする意図に基づくものと推認せざるを得ない。

したがって、被告の原告らに対する本件解雇は、解雇権の濫用として、その効力を生ずるに由ないものというべきである。

五  被告は、平成四年五月分の原告らの賃金を支給した旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、被告会社は、原告長倉に対し、平成四年五月二五日、金二〇万〇三五五円を、原告早坂に対し、同日、金二〇万二八五六円をそれぞれ同日までの五月分の賃金として振込入金して支払ったことが認められるものの、右各証拠によれば原告らによっていずれもその受領を拒絶されたことが認められるから、結局、被告会社の原告らに対する同月分の賃金の支払債務は未だ消滅していないというほかない。

六  したがって、原告らは依然として被告会社の従業員であり、被告会社において原告らの労務提供を拒否していた以上、原告らが被告会社に対して賃金請求権を有することは明らかである。また、原告長倉については月額賃金が金一七万九三〇〇円であり、原告早坂については月額賃金が金一八万一五〇〇円であること、被告会社においては、賃金の計算期間を前月二一日から当月二〇日までとし、これを当月末日に支払うものとされていることは当事者間に争いがない。

七  以上のとおり、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告らが雇用契約上の地位を有することの確認を求める点、平成四年五月一日以降本判決確定に至るまで毎月末日限り原告長倉が月額金一七万九三〇〇円、原告早坂が月額金一八万一五〇〇円の各割合による賃金の支払を求める点はいずれも理由があるからこれを認容する。但し、原告らは一部将来の賃金額の給付を求めているが、本判決が確定して原告らが雇用契約上の地位を有することが確認されれば、その時において、被告の任意の履行を期待できるしその可能性もあるのであるから、本判決確定の日の翌日以降の分についてまで、現在において将来給付の請求を認める必要性がないと解するのが相当である。したがって、原告らの本判決確定の日の翌日以降の賃金請求の部分は訴えの利益がないからこれを却下することとする。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山野井勇作 裁判官 伊藤敏孝 裁判官 沼田幸雄)

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